東京の伝統野菜「マクワウリ」を食して、信長気分を味わった話|2020年夏

いつの頃からかはっきりしないのですが、“マクワウリ” を食べてみたいと長らく思ってきました。

マクワウリとの出会いは、確か戦国時代を舞台にした歴史小説(山岡荘八・著『徳川家康』だったような気がする)で、織田信長や徳川家康が美味しそうに“マクワウリ”なるものにかぶりついているシーンがあり、みずみずしく美味しそうなマクワウリの描写に心を奪われたのだったと思います。

ずいぶんな大人になるまでご縁のなかったマクワウリでしたが、コロナ禍に揺れる2020年夏、ついに食すチャンスが到来。念ずれば通ずとはこのことだなと思った夏の思い出をご紹介いたします。

マクワウリとは?

マクワ瓜は古くから日本で親しまれてきた食材の一つで、縄文時代の初期には既に食べられていたと言われています。ウリ科キュウリ属のツル性の植物の果実で、メロンの一種と言えます。
美濃国(現在の岐阜県南部)の真桑村(現在の本巣市)でよく作られていたため、その地名をとってマクワ瓜(真桑瓜)と呼ばれるようになったようです。

マクワウリ/真桑瓜/まくわうり:旬の果物百科

マクワウリを食したことのある人に聞くと、たいてい「メロンの味の薄いやつ」とか、「味のないメロン」とか、夢のないことを言われがちでした。メロンの一種ということで、あながち間違いでもないらしいが、信長さまはあんなに美味しそうに召し上がっていたのに(脳内イメージ)…と少し残念に思っていました。

とはいえ、現代のように歯に沁みるほどの糖度の食べ物などなかった戦国時代のこと。現代人にとっては味が薄いと感じるかもしれないけれど、いまよりずっと五感が鋭かったであろう当時のひとたちにとってはとろけるような甘さの水菓子だったに違いありません。

出会いは突然に。

そんなふうに、少しずつ聞き込みを重ねていたマクワウリでしたが、現実的な出会いは突然にやってきました。

それは、江戸東京・伝統野菜研究会 大竹道茂さんが運営されている『江戸東京野菜通信』という情報ブログでのこと。

大竹さんは、東京の伝統野菜の種の復興と保存に尽力されている方。東京の伝統野菜といえばこの方という第一人者で、東京の府中で江戸時代に盛んに栽培されていたマクワウリについて、「府中のまち興しとして昔のマクワウリを探してほしい」と依頼され探し当てた顛末が紹介されていたのです。そこに、府中市郷土の森観光物産館(東京都府中市)で、マクワウリが販売されているという耳より情報が!

すわとばかりに府中市郷土の森観光物産館のサイトを訪ねたのは、2020年8月中旬のこと。そして、8月中旬~下旬にマクワウリの出荷があるとの情報をつかんだのです。

これは・・・買いに行くしかない。

伝統野菜について。

ここで少し話はそれますが、日本各地の「伝統野菜」が、いま改めて注目されていますね。伝統野菜とは、それぞれの土地で古くから栽培されてきた在来種の野菜のこと。種から育てて、採種し、また来年その種を蒔く。そうして連綿と作り続けられてきた、その土地ならではの野菜たちです。

安定的に日本全国へ供給するために品種改良された野菜いわゆるF1種と比べると、収穫時期は限られ収量も少ないため、ほぼ地産地消で消費されると聞きます。旬の時期ならではの季節のごちそうといえるのではないでしょうか。

各地域に個性豊かな伝統野菜が知られていますが、実は本記事の主役「マクワウリ」も、そんな伝統野菜のひとつだったのです。

話は江戸時代までさかのぼります。徳川家は江戸開府後、江戸の御用地でマクワウリの栽培を奨励。現在の成子天神(東京都新宿区)を中心とした地域と府中市周辺が特産地となっていたのだそう。なんでも、美濃の真桑村からマクワウリの栽培名人を呼び寄せて栽培をさせていたのだとか。そして、それぞれ新宿のマクワウリが鳴子ウリ、府中市のマクワウリが府中御用瓜として受け継がれ、現在の東京の伝統野菜「江戸東京野菜」となったというのです。

マクワウリに会いに。

そんな江戸東京野菜のひとつ「府中御用瓜」をついに手にできると、文字通り浮足立った気持ちで、炎天下の府中市郷土の森観光物産館へ向かいました。マスクをして。

足を運んでもし空振りだったら辛すぎるので、当日の朝、物産館へ電話して出荷状況を確認した上で向かいました。電話対応してくださった方が、親切に取り置きをしてくださることになったので、浮足立ちつつも心安らかに向かいます。

バス停横に大きな看板

府中市郷土の森観光物産館入口

そうして、めでたく手に入れたのが、こちら!

いきなり、二種類のマクワウリが手に入りました。

実食。

ささ、いよいよ実食です。

問題は、どのくらいの熟れ度合で食べるか。

かなり迷いました。熟れすぎたメロンは個人的には好みではないのですが、硬いメロンも好みません。

物産館のレジのおねえさんは「ヘタのまわりを押してみて柔らかくなっていれば食べごろ!」と教えてくださいました。大竹さんによると、ヘタがついていないものは「ヘタ落ち」といってもう食べてよい頃合いとも。

右が、江戸東京野菜の府中御用瓜。信長公が食べてたのは、まさにこんな感じのかたち!(脳内イメージ)

ということで、悩んだ挙句、もう少し熟れるのもアリかなー? くらいのところで手を打つことに。いざ、入刀です。

手前が府中御用瓜。個人的には、もう少し熟れててもよかったかも

夢のマクワウリを、ついに食しました。

感想は・・・完全にメロン。メロンです!

お・い・し・い!

甘い!

しかも、和風のメロンです。甘さが和風です。後味が、すっきりしています。

信長公のように、かぶりついて種をぷーっとするほどの度胸はなく、小物らしくちまちまと切り分けていただきましたが、気分は信長公。そして、家康公。

信長公と家康公も、アブラゼミの鳴き声をBGMにマクワウリを食べたのかな、そんな楽しい空想をしながらの初めてのマクワウリにありついた2020年夏の思い出でした。

来夏、ぜひみなさんもご賞味ください!

<参考>
府中市郷土の森観光物産館-トップページー
鳴子ウリ・府中御用ウリ | 江戸東京野菜について | 東京の農業 | JA東京中央会
鳴子ウリ | 東京農業歴史めぐり | 東京の農業 | JA東京中央会
江戸東京野菜とは? | 東京都の農林水産総合サイトTOKYO GROWN
江戸東京野菜通信|大竹道茂の伝統野菜に関する情報ブログ




japonism 編集人
大手ISP、東京・銀座の着物小売り店など勤務の後、独立。美容誌Webサイトディレクターをはじめ、CGM、企業オウンドメディア等、各種Webメディアの企画・編集に従事。着物好きが高じて着物の着付師修行も、手先不器用のため断念。それでも、大好きな日本の文化・いいモノ・コト・ヒトを伝えたいと、日本のいいね!が見つかるメディア『japonism』を、2018年6月たちあげ。日本のアップデートに、微力ながら貢献できればうれしい。

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