キモノプロジェクトがすごい! 世界の国々を振袖と帯に表現

世界中の国々を、振袖と帯に表現しようというプロジェクト「IMAGINE ONEWORLD-KIMONO-プロジェクト(キモノプロジェクト)」が、すごいんです。

東京オリンピックが開催される2020年までに、 世界の196カ国すべての国をイメージしたKIMONO(KIMONO:各国をイメージして制作される振袖と帯の総称) を制作するという、夢のようなプロジェクトです。オリンピックへの参加は、“世界の国と地域 ” ということですから、地域まで含めるとその作品数は、最終的に200を超えるのかもしれません。

しかも、何がすごいって、 制作者たちが“日本全国の着物、帯制作者のうち、工芸価値のある作品づくりが可能な制作者 ”であるということ! 人間国宝級の方々が、制作にあたるというわけであります。

この壮大で、壮絶で、夢のようなプロジェクトの仕掛け人は、福岡・久留米の着物専門店 きもの蝶屋の代表取締役社長、 高倉慶応さん。 一般社団法人イマジン・ワンワールドを立ち上げ、 代表理事として当プロジェクトの推進にあたっておられます。イマジン・ワンワールドのKIMONO制作事業の概要は、以下の通り。制作費が同一というところに、制作者の方をはじめ関わる方々すべての志を感じます。

1. 日本全国の着物、帯制作者のうち、工芸価値のある作品作りが可能な制作者に参画を依頼。工芸的技術の発展・伝承、若手の育成を狙い、バラエティー豊かな人選を行う。

2. 制作費は国家の大小関係なく、各国とも同一とする。

3. デザイン案作成は、可能な限り当核国の大使などや出身者から収集、確認を経る。

4. 将来的にレガシーとして受け継がれる最高峰の作品作りをプロデュースする。

理念・事業概要 | プロジェクト | 一般社団法人イマジンワンワールド

着物を着る人の減少、着物職人の高齢化、後継者不足等により斜陽産業といわれる着物業界において、現状を打破したいとはじめたこのプロジェクト。高倉さんがこのプロジェクトを思いついたのは、東京五輪の開催が決定した 2013年9月頃。1964年の東京五輪で振袖姿の女性たちがメダルを運ぶ様子を、テレビの特集番組で見たことがきっかけだそう。

彼女たちの晴れ着が、 50年後のいま見てもいいデザインだと感じる良い着物だったので調べたところ、それは本人たちの手持ちの着物だということに関心した。そして、2020年には、あの場所にどんな着物が上がるんだろう、1964年に負けないようなコンセプトを立ち上げて、全国の作り手の力を結集することにより、1964年に勝る着物としての何かできるのではないか、と考えた。こうして、この壮大なプロジェクトをスタートしたということなのです。

さらに、つくるKIMONOは、生半可なものではなく、日本の最高の技術をもった職人に着物をつくってもらいたい。日本の技術を守る、発展させる機会に使いたい。ただ伝統にのっとってつくるのではなく、それぞれの作り手にそれぞれのチャレンジを求め、新しいものを生み出すことによって、“文化を前に進めていこう ”というのです。

なんと尊い…。

2014年11月には、南アフリカ、リトアニア共和国、ブラジル連邦共和国、ブータン王国、ツバルをテーマにしたKIMONOが完成。最高の作り手たちの技の競演、そしてそれぞれ一枚一枚にストーリーがあり、素晴らしいです。

南アフリカ共和国 (アフリカ)
作者:着物 松田徳通(ローチケ重ね染め、無線友禅)、帯 衣扇 四條庵(西陣特殊織物)
同国が乗り越えてきたその歴史を、奇跡の二週間といわれる不毛の高山地帯で咲きほこる花に譬え表現。

リトアニア共和国 (ヨーロッパ)
作者:着物 染処おかだ(手描き京友禅)、帯 龍村美術織物(西陣手織錦・宮内庁御用達)
戦時中、駐リトアニア大使の杉原千畝氏は、祖国の命に背きユダヤ人に対してビザを発行し、多くのユダヤ人を救った。人道的で勇気ある行動への敬意と尊敬の念を込め、同じ日本人としての賛美をこめて制作。

ブラジル連邦共和国 (南北アメリカ)
作者:着物 千總(京友禅・宮内庁御用達)、帯 龍村美術織物(西陣手織錦・宮内庁御用達)
日系人が困難の上に開墾し生産している絹は「ブラタク」と呼ばれる高品質の絹糸であり、現在の着物の生産に欠かせない。遠く海を渡り、同じ志で頑張った同朋へのオマージュ。

ブータン王国 (アジア)
作者:着物 千總(京友禅・宮内庁御用達)、帯 西村織物(博多織・手織佐賀錦)
呉服の「呉」の語源は、ブータンの男性の民族衣装「ゴ」に由来するといわれる。国民の幸せを国家目標に掲げ、物質文明にとらわれない姿勢は世界に大きなメッセージを投げかけている。

KIMONOプロジェクト ツバル
ツバル (オセアニア)
作者:着物 故 木原明(日本工芸会正会員・ 京都府無形文化財保持者)、帯 服部織物(西陣手織引箔錦)
地球温暖化の影響をうけ、海に沈もうとしているツバル。その美しい海、花、光を描いたのは木原明先生。

2018年4月には、100ヵ国のKIMONOが完成し『100か国完成披露式典』が、福岡県久留米市にて盛大に開催されました。

ショーは、YouTubeで見ることができます。各国をイメージした振袖・帯はもちろんのこと、着付けも見事です。眼福です。

『100か国完成披露式典』では、共催者代表として 「KIMONO PROJECTを応援する会」の麻生泰 会長(一般社団法人 九州経済連合会 会長、兄は麻生太郎 現副総理)が挨拶に立ったり、福岡6区選出の自由民主党衆議院議員 鳩山二郎氏(父は故鳩山邦夫氏)が来賓祝辞を述べたりと、キモノプロジェクトが政財界を巻き込んでの一大プロジェクトとなったことがわかります。

イマジン・ワンワールドの事業内容は、こうしたKIMONO制作にとどまらず、KIMONOを通じた地域事業や教育事業、おもてなし事業、と制作のその先もにらんでいます。

出来上がったKIMONOは、様々な場面で活用されているのです。例えば、2019年1月8日、ブルーマウンテンの日にジャマイカ大使館で行われた限定レセプションでは、ジャマイカのKIMONOを大使夫人が着用。 大使夫人は、袖に染め抜かれた見事なブルーマウンテンのかすみがかった色が本物そのものだと、自らプレスへプレゼンするなど両国の友好の懸け橋として、KIMONOが一役買っていました。染で、自然の色合いを見事に再現してみせた日本の技を誇りに思います。

2020年の東京五輪の開会式で、すべての国の着物を披露したいという夢を実現させられるよう、ぜひたくさんの方に知っていただきたいと願っています!

ついに完成! 全213のKIMONO(振袖と帯)

※2020年7月26日追記

KIMONOプロジェクトのKIMONO制作がついに完成! 2020年7月24日、世界へ向けて完成を知らせる動画が公開されました。

制作されたのは、KIMONO東京オリンピック・パラリンピックに参加予定のすべての国と地域、そして難民選手団をあわせた207、さらにラグビーW杯の英国を構成する地域なども加えた全213着。

圧巻の全213着。ひとつひとつの国と地域の文化や人々と向き合い考え、そして一筆・一織、作家や職人が創り上げた途方もない時間と努力と技を思い、そして、シンプルにその美しさに胸を打たれ、動画の終盤には感動で思わず眼がしらが熱くなってしまいました。

コロナ禍で、東京オリンピック自体の開催は延期となりましたが、当初の開催スケジュールにしっかりと合わせて完成されたことも偉業!

<参考>
日本を代表する職人達が世界195カ国の着物を創作 IMAGINE ONEWORLD-KIMONO-プロジェクト |NPO法人plususのプレスリリース
一般社団法人イマジンワンワールド | KIMONO PROJECT
「100か国完成披露式典‐KIMONOプロジェクト‐」日本のKIMONO制作発表 – YouTube
「100か国完成披露式典」祝辞の様子‐KIMONOプロジェクト‐ – YouTube
TOKYO応援宣言 アフリカ“未知の国”を着物で表現!悪戦苦闘するも、完成品に贈られた言葉に涙 – YouTube
【2018.1/8】ジャマイカ大使夫人ご着装 – YouTube
NHKドキュメンタリー – KIMONO革命~全世界の晴れ着を創る~




japonism 編集人
大手ISP、東京・銀座の着物小売り店など勤務の後、独立。美容誌Webサイトディレクターをはじめ、CGM、企業オウンドメディア等、各種Webメディアの企画・編集に従事。着物好きが高じて着物の着付師修行も、手先不器用のため断念。それでも、大好きな日本の文化・いいモノ・コト・ヒトを伝えたいと、日本のいいね!が見つかるメディア『japonism』を、2018年6月たちあげ。日本のアップデートに、微力ながら貢献できればうれしい。

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