[タネコラム]『さよならテレビ』という本

東海テレビドキュメンタリー劇場シリーズの映画『人生フルーツ』のファンである。戦争を生き抜き、高度経済成長期とそれに続く大消費時代を超え、貫きとおした哲学と生き様。あのご夫妻のような、土を耕し、樹を育て、実りを味わう、そんな暮らしに憧れている。

『人生フルーツ』以来、かくれフォロワーになった東海テレビ 阿武野勝彦プロデューサーの著書『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』(平凡社, 2021)を読んだ。

阿武野氏が制作に関わってきた東海テレビドキュメンタリー作品をひとつひとつ振り返りながら、“ドキュメンタリーを撮るということ”について論じた一冊。放送時間を埋めるために作られたようで白々しく積極的には観なくなったテレビだけど、それとは対極にあるようなテレビの在り方、ドキュメンタリー制作にかけたテレビマンの矜持がいっぱいに詰まっていた。

読み物として、ことば選びが豊かで面白い。それは、映像に添えるナレーションづくりで研ぎ澄まされたものなんだなと読み進めていくうちに分かってくる。ポレポレ東中野での最新作『チョコレートな人々』上映舞台挨拶で感じた、スマートでジェントルな雰囲気とは裏腹に、スタッフの人格を否定されて相手に掴みかかってもみあったりする荒っぽい一面も垣間見えて楽しい。

関東に暮らしていると、どこか遠い東海での事件や人々の暮らし・生き様が身近なこととして立ち上がってくる。東海テレビのドキュメンタリー番組、関東でも放映してくれたら良いのになと思う。

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ドキュメンタリーは、制作者の意図で、出来事を切り取って見せているわけだから、視聴者としてはそういうつもりで見る必要があると私は思っている。「何か言いたいことがあって、現実の映像を使って表現されたもの」なんだと。

そんな心づもりで向き合うと、同シリーズ映画『さよならテレビ』も『チョコレートな人々』も、視聴後に、ぽいっと現実社会にほっぽり出されてしまうような感じがある。あとは自分で考えてねと。決めつけすぎず、余白たっぷりという感じ。ある意味、物足りない、というか、ちょっとよく分からないなと感じる。

で、いろいろ考えてあーでもないこーでもないとぐるぐるしているうちに、いつのまにかなんとなくこうゆうことかなと、自分なりにぼんやりと見えてくるものがある。そうすると、現実社会のなかでの見え方や歩き方が、ちょっとだけ変わってる。投げかけられた小石で、あちこちに波紋が広がっていくんである。

『さよならテレビ: ドキュメンタリーを撮るということ』
出版社:平凡社
発売日:2021/6/17
新書:352ページ
https://amzn.to/3ZCpHsy




japonism 編集人
大手ISP、東京・銀座の着物小売り店など勤務の後、独立。美容誌Webサイトディレクターをはじめ、CGM、企業オウンドメディア等、各種Webメディアの企画・編集に従事。着物好きが高じて着物の着付師修行も、手先不器用のため断念。それでも、大好きな日本の文化・いいモノ・コト・ヒトを伝えたいと、日本のいいね!が見つかるメディア『japonism』を、2018年6月たちあげ。日本のアップデートに、微力ながら貢献できればうれしい。

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